クラシックギター用滑り止めの選び方|脱力し演奏を安定させる科学的根拠や塗装への影響などを解説

ギター演奏に滑り止めを使う効果の画像 ギター用品
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現代ではクラシックギターの演奏に滑り止めを使っている方が多くいます。ギターを支えるための力が抜け、リラックスした状態で弾けるなどのメリットがあるため、プロの間でも使用している方が多いです。この記事では滑り止め選び方を、使用するメリットを科学的な根拠、素材による塗装への影響を踏まえて解説します。

この記事を書いた人
かーる

クラシックギター歴35年、国際コンクール入賞経験を持つ演奏家・レビュアー。「ヘルマン・ハウザー2世」や「ヘスス・ベレサール・ガルシア」を愛用し、演奏者視点で忖度ない機材レビューを発信中。弦のレビュー数は70種類以上。
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滑り止めを使うメリットとデメリット

まずは滑り止めを演奏に使うメリットとデメリットを解説します。

右手の指が動かしやすくなる

滑り止めを使うと右手の指が動かしやすくなります

伝統的なクラシックギターの演奏では、ギターを両足、胸、右腕で支えます。この中で下向きの力を強く加えられるのは右腕のみです。

ギターの塗装は一般的につるつるしたものが多く、衣服との間の摩擦があまり強くありません。このため、ギターが滑らないようにするには右腕でギターを下方向に押し付けざるを得ません。

すると、右腕の中にある指を動かすための腱が動かしづらくなり、指が自由に動かなくなるのです。

右腕で楽器を固定するという方法のデメリットについては、ほかにも科学的な研究が行われています。

たとえば、生体力学的には極めて非効率であるという研究(参考:Costalonga, 2009)や、ギターを固定しようとして力を入れるためにギタリストの多くが指を曲げる筋肉を伸ばす筋肉よりも過剰に使っている状態にあるという研究(参考:Portnoy, et al., 2022)があります。

脱力した姿勢で弾ける

滑り止めがない場合、ギターをしっかり固定しようとして前かがみの姿勢で演奏しがちになります。

この姿勢は身体に負担がかかりますし、呼吸がしづらいなど演奏にとって良くありません。また、身体のどこかに常に力が入っているとほかの部位も脱力が難しくなります。

滑り止めを使うと背骨をしっかり立て、安定した基盤の上でギターの演奏に集中できるようになります。

音にも良い影響が

ギターの音にも良い影響が生まれます。

人間の身体は強力な吸音材であり、ギターに接したり近づけたりすると音が吸収されてしまいます。

滑り止めを使うとギターと身体が接する面積を減らし、これらの間に空間を作ることで吸収される音を減らすことが可能です。

これは以前紹介した支持具を使うメリットと同じですね:

塗装への影響に注意

滑り止めを使うデメリットとしては塗装への影響があります。

滑り止めの中にはギターの塗装に影響がある素材を使っているものがあり、塗装を溶かしてしまうかもしれません。

たとえばラッカー塗装はゴムと触れると化学反応を起こして溶けてしまいます。

滑り止めは左足に使うべき?右足に使うべき?それとも両足?

ギター演奏に滑り止めを使う際、左足に使っている方、右足に使っている方、両足に使っている方がいます。

力学的に考えた場合、実は左足と右足では滑り止めの効果が違うのです。

以下の表にまとめます:

滑り止めを使用する足強化される摩擦力抑制されるギターの不要な動き
左足のみ垂直方向の摩擦力膝から下方向へのずり落ち、重力による脱落
右足のみ水平方向の摩擦力ボディが前方へ逃げる動き、ネックの前後への揺れ
両足垂直方向および水平方向の摩擦力上記すべての不要な動き
ギター演奏時の滑り止めを使う足とその効果

左足に滑り止めを使う効果

クラシックギターの標準的な演奏姿勢において、左足に滑り止めを使うとギターが膝方向に滑り落ちるのを防ぐ摩擦力が強くなります

これによって特に楽になるのがハイポジションでの演奏やセーハです。

これらの動作では左手から左下方向に強く力が働くため、左足とギターの間の摩擦力が弱いとギター全体がバランスを崩して滑り落ちてしまいます。

右足に滑り止めを使う効果

一方、右足に滑り止めを使った場合はギターが回転しようとする動きを防ぐ摩擦力が強くなります

極端な例でいうと、左手の親指を使わずに弦を押さえるとギターと左足との接点を中心に回転するのがイメージできるかと思います。回転する力はポジション移動やビブラートでも生じます。

時々演奏中にギターを引き寄せるような動作をしている方がいますが、あれはギターが演奏中に回転してしまったのを戻しているのです。

右足に滑り止めを使うことでギターが回転しようとする力を防ぐことができます。

これにより演奏中にギターのボディが身体の前へ滑り出したり、ネックが上下に揺れてしまうという問題を軽減できます。

両足に使うのがおすすめ

このように左足と右足で滑り止めの効果が異なるため、おすすめなのは両足への滑り止めの使用です。

しっかりと固定できる滑り止めを使うと、まるでギターが空中に浮いているかのような安定感を得られます。

ギター用滑り止めの選び方

100均の滑り止めはあまりおすすめできない

100均やホームセンターで売られている滑り止めはPVC(塩化ビニル樹脂)が使われています。たとえばダイソーのものはこちらです:

すべり止めシート厚手 ブラック
原産国(地域):中国 材質:塩化ビニル樹脂 商品サイズ:30cm×100cm×0.3cm 内容量:1個入 種類(色、柄、デザイン):アソートなし マットやラグの下に。ボトルのオープナーに汚れた場合は手洗いし、陰干ししてください。 中性洗剤を...

PVCは安いのですが、ギターの塗装に悪い影響があるかもしれません。

PVCは本来水道管などのように非常に硬い物質です。これを滑り止めのように柔らかい状態にするために「可塑剤」と呼ばれる物質が使われています。

この可塑剤は、いわば「蒸発しない溶剤」のようなものです。普通の溶剤は時間とともに蒸発しますが、可塑剤はギターに触れている間ずっと塗装を攻撃し続けるため、気づいた時には癒着して手遅れ……という事態になりかねません。

滑り止めを他の用途に使ったとき、気が付いたら滑り止めと接していた部分がべたついたり、網目模様がついてしまったりした経験があるかと思いますが、あれがギターにも起こるということです。

といっても、「じわじわ」としか染み出さないのですぐに塗装に影響があるわけではありません。ただ、できれば使用は避けたほうが良いですし、使うにしてもつけっぱなしは避けたほうが良いでしょう。

実際、PVC製と思われる現代ギターのGGスーパー・マットにも以下の注意書きがあります:

注意
・長時間のご使用は避けてください。ギターの塗装を痛める場合があります。

・本製品使用による楽器へのダメージ及び塗装面の変色ついては一切の責任は負いかねます。

出典:現代ギター

また、EVAや正体がわからないゴムも同様のリスクがあります。

専用の滑り止めが安心

おすすめなのはクラシックギター用に販売されている滑り止めです。

私が以前レビューしたオプティマのピッカーズクロスがその1つです:

また、TenorのAnti-Slip Pad(TASP)も専用滑り止めです:

これらは100均のものに比べると高価ですが、滑り止めとしての性能や耐久性、そして塗装を痛めにくい「非移行性」の素材を使っているので安心感が違います。

一度使うとPVC製には戻れません。

良い滑り止めを使って効果を最大限に引き出そう

滑り止めにはギターの演奏に様々な良い効果がありますが、それは滑り止めとしての役割をしっかり果たせてこそです。

また、滑り止めを使うことでギターの塗装に悪影響があることもあるので、安さだけではない観点で選ぶと良いでしょう。

消耗品ではなくある程度長く使えるものでもあるので、ぜひこだわってみてください。

次の記事では今のところ最強の滑り止めと思われるオプティマ ピッカーズクロスとTenor TASPを実際に使用し、その違いをレビューしたいと思います。

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