「最近、高音の伸びが足りない気がする」「特定のフレットだけ音が詰まる」……。その原因、もしかしたらヘッドに付けたその「数十グラムの塊」にあるかもしれません。この記事ではクリップチューナーがギターの音に与える影響を音響物理学の点から解説し、できるだけ音に影響を与えないおすすめチューナーや取り付け方を紹介します。
すっかり市民権を得たクリップチューナー
クラシックギターの調弦は昔は音叉を使って行われていました。音叉の音と5弦の音を合わせ、5弦を基準にほかの弦の音を合わせていくというやり方です。
それが、ある時からカード型の電子チューナーが登場し、あれよあれよという間にクリップチューナーに置き換わりました。
私もクリップチューナーを愛用していますが、手軽に調弦できて精度もよく、本当に便利です。
ただ、クリップチューナー反対派の方も根強く存在します。その理由としては、
- チューナーで調弦すると耳(音感)が鍛えられない
- ギターの美しい見た目を損なう
- ギターに何かつけることで音が悪くなる
耳が鍛えられないのはその通りかもしれません。近いうちにチューナーを使わない調弦のやり方の解説記事を書きたいと思っています。
美しい見た目を損なうという点は気にする人が多く、目立たず取り付けられるチューナーが販売されています。コンサートではプロも最近はこの手のチューナーを使っているようです:
この記事では最後の音への影響について解説します。
音響物理学上、クリップチューナーはギターの音に影響がある
音響物理学の観点から言えば、クリップチューナーを取り付けるとギターの音への影響は避けられません。その理由を解説します。
重要なのは、ギターは弦や表面板だけでなくネックやヘッドも振動するという点です。
弦や表面板の振動が音の大部分を決めるのは確かなのですが、弦の振動は100%サドルを通して表面板に伝わるわけではありません。ギター本体が柔らかい(完全な剛体でない)素材でできている以上、弦の振動はギター本体も振動させます。
結果として弦の振動の一部がネックやヘッドに吸収され、あるいはネックやヘッドを共振させることで、サステインや音色に影響を与えるのです。
以下で詳しく解説します。
サステインの変化
クリップチューナーが音に与える影響の大きさは複数の要因で決まりますが、その1つがクリップチューナーの質量(重さ)です。
まず、直感的に理解しやすいのは重いチューナーを取り付ければネックやヘッドが重くなり、弦の振動によって本体が振動しづらくなるという点ではないでしょうか。
振動しづらくなると弦の振動がそれらの振動に使われづらくなり、弦や表面板を長く振動させてサステインが伸びます。
一方、楽器全体が共鳴して生み出す音が少なくなり、倍音の複雑性が抑制されます。
結果、クリップチューナーを取り付けた場合と取り付けない場合では以下のような違いが生まれるでしょう:
| メリット | デメリット | |
| クリップチューナーなし | 豊かな音色 | サステインが短い |
| クリップチューナーあり | サステインが長い | タイトでデッドな音色 |
ちなみに、この違いを生かしたアクセサリとして、FenderがFatfingerという製品を販売しています:
ヘッドに100gの金属製クランプを取り付けることでサステインを伸ばすというアクセサリであり、つまり100g程度の重りであっても明確にサステインを変化しうるという傍証となっています。
ウルフトーンの変化
ギターの質量が変わると固有振動数が変わります。クラシックギターでよく知られている言葉でいうと「ウルフトーン」や「デッドスポット」が変わるということです。
Helmut Fleischerらが1998年に発表した論文によると、ヘッドが重くなるとウルフトーン/デッドスポットが低音域側にシフトするそうです。
ギターの振動はいわば振り子のようなもので、ヘッドが重くなると、ネックという「振り子」の動きがゆっくりになり、音の高さや響き方が変わってしまうというイメージがわかりやすいでしょうか。
クラシックギターは設計の際にできるだけウルフトーン/デッドスポットが目立たないような周波数になるように設計されます。
ところが、クリップチューナーを取り付けることでウルフトーン/デッドスポットの周波数が下がり、特定の音だけ伸びなくなる、あるいは過剰に共鳴するということが起こりうるのです。
表面板や裏板との連動の変化

Bernard Richardsonらの研究によると、ネックやヘッドは表面板や裏板と独立に振動するのではなく、お互いに連動してダイナミックに振動します。
特に低周波数域においてこの連動性が高く、ネックが曲がるように振動する動きが楽器全体の音響放射に寄与するそうです。
この「ネックが曲がるように振動する」振動モード(ネックベンディングモード)は、ヘッドの先端にクリップチューナーの重さが加わることで影響を受けるため、楽器の響きを変化させます。
音の吸収による変化
クリップチューナーは一般的に、ギターにしっかり取り付けるため、またギターを傷つけないためにゴムやシリコンのような素材を介して取り付けられます。
このゴムやシリコンのような弾性材料は高い内部摩擦係数を持っており、弦からネック、そしてヘッドへと伝わる振動を熱エネルギーに変換するのです。
つまり、本来はギターを振動させるはずのエネルギーが吸収されてしまい、音になりません。
あえて悪く言えば、美しいギターの響きを、分厚い消しゴム(チューナーのゴム)でわざわざ抑え込んでいるようなものであり、もったいないのです。
特にヘッドの先端のような振動の末端部分にこのような材料を配置すると影響が大きく、サステインの減少、低音の力強い振動の喪失、響きがデッドになるといった変化が生まれるでしょう。
音に影響を与えないチューナーの選び方と取り付け方
クリップチューナーがギターの音に与える影響の原理がわかったところで、できるだけ音に影響を与えないチューナーの選び方と取り付け方を解説します。
できるだけ軽いクリップチューナーを選ぶ
上で解説した通り、クリップチューナーが音に与える影響は重さが重くなればなるほど大きくなります。
したがって、できるだけ軽いクリップチューナーがおすすめです。
クリップチューナーなんて小さいけどそんなに重さが違う?と思う方もいるかもしれませんが、実際に比べてみるとかなり違います:
大体5倍くらいの差がありますので、取り付けるクリップチューナーによって音が変わるということはあり得るでしょう。
ただし、重いチューナーが悪いわけではありません。重いのには理由があり、例えば、
- ボールジョイントなどを採用し調整幅が広い
- 電池が大容量で持ちがいい
- 精度にこだわった部品を使用している
といった可能性があります。あくまで「音への影響を考えるなら」です。
ヘッドの先端に付けない
クリップチューナーはついついヘッドの先端に取り付けがちですが、実はここは音に最も影響がある場所です。
弦の振動がサイン波のようになっているのはよく知られていますが、ヘッドやネックもやはり同じようにサイン波のような形状で振動します。

ヘッドの先端はこのサイン波の一番振幅が大きい場所になりやすく、音への影響が大きいのです。
Ian Perryによる研究でも振幅が大きい場所に質量や力を加えると振動モードへの影響が大きいと述べられています。
逆に言えば、振幅が小さい場所、理想的には上下しない場所にクリップチューナーを取り付けると音への影響を抑えられるでしょう。
場所はギターによって変わりますが、まずは先端に取り付けるのを避け、違う場所に取り付けてみて音の変化を確認してはいかがでしょうか?
硬めで小さいパッド素材のものを選ぶ
柔らかい素材でギターと接触するクリップチューナーは振動を熱エネルギーに変えやすいです。
硬くて薄いシリコン素材のパッドを持つクリップチューナーがおすすめといえます。
また、ギターに触れている面積も小さいほうが理想的です。
おすすめのクリップチューナーはダダリオのPW-CT-12RC
音への影響を考えて私がおすすめするクリップチューナーはダダリオのPW-CT-12RCです:
重さが約8gと軽く、音への影響を最小限に抑えます。
また、ギターへの接触面が上下とも硬くて薄い素材です。触ってもまったくへこみません:

非常に小さいのでギターへの取り付け位置の自由度が高く、音への影響が小さい位置を探しやすいでしょう:

また、長い棒状のパーツがないという構造上チューナー自体のびびりが発生しづらいというメリットもあります。
機能的にもUSB充電、高い精度、コストパフォーマンス荷も優れるなど完成度の高い製品です。なおよく似た名前ですが、PW-CT-12はボタン電池で上下角度の調整ができないバージョンなので注意してください。
こちらの記事で詳しくレビューしていますのでご覧ください:
音にこだわるならクリップチューナーにもこだわろう
クラシックギターを弾く方はその音が好きな方が多く、ギター本体、弦、爪などあらゆる要素で良い音を追求します。
せっかくならクリップチューナーにもこだわってみてはいかがでしょうか?
もしかしたら今のギターの音はそのギターが持つポテンシャルよりも下かもしれませんよ。
















