【ギターが噛みつく!憑依する!】ギターの音色表現の言葉とその意味を日本語と外国語で解説

Duendeなギターのイメージ画像 楽器
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私は長らくギターの音色表現の「粘り」というのがどういう意味なのか分かりませんでした。最近はネットで販売中のギターについて言葉でその音色を伝えようとする店がたくさんありますが、どの店も当たり前のようにギター特有の表現を使っていると感じないでしょうか。

日本語だけでなく英語やスペイン語での音色表現を調べたら意外に面白いことがわかったので、ギターを選ぶ時の参考情報兼面白情報として解説します。ギターが「噛みつく」とか「憑依する」ってどんな音かわかりますか?

この記事で紹介する内容は私が調べて解釈した限りの音色表現とその意味であり、もしかすると違う意味にとらえている方や、あるいはほかにも独特の表現があるかもしれません。お気軽にこの記事のコメント欄やお問い合わせフォームからご連絡いただければ追加するようにいたします。

この記事を書いた人
かーる

クラシックギター歴35年、国際コンクール入賞経験を持つ演奏家・レビュアー。「ヘルマン・ハウザー2世」や「ヘスス・ベレサール・ガルシア」を愛用し、演奏者視点で忖度ない機材レビューを発信中。弦のレビュー数は70種類以上。
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独特の音色表現を持つギター

ギターに限らず楽器の音色を言語で表現するのは難しいです。

単純に音程が高い/低い、音量が大きい/小さいで表しきれないところにこそ楽器の魅力があるのですから当然ではあるのですが、一方で楽器選びや仲間やSNSでの情報共有の際に何かしら言語化しないと伝えたいものも伝えきれません。

このためギターの音色表現の言葉は日常で使う言葉を流用しつつ、その意味は独自の進化を遂げています

これによって「わかる人にはわかる」ようにはなったのですが、必ずしも万人が同じ音色をイメージするとは限りませんし、そもそも意味がわからない言葉も存在するでしょう。

私も長らく「粘りがある」という表現の意味がわかりませんでした。

せっかくなのでギターの音色をあらわす言葉を日本語に加えて英語とスペイン語で調べたら、なかなか興味深い表現があったのでご紹介したいと思います。

日本語の表現は楽器選びやコミュニケーションの際に、外国語についてはトリビア的に利用していただけると幸いです。

日本語でギターの音色をあらわす言葉とその意味

日本の庭園にギターと音色表現が描かれている画像

まずは日本語でギターの音色をあらわす言葉とその意味をご紹介します。以下が一覧表です:

日本語表現概念カテゴリ音響的・音色の特性
粘り触覚・流体力学長いサステイン、自然な減衰、滑らかなレガートの接続。
視覚・反射位相の揃った高周波の倍音、インハーモニシティが少ない。
透明感視覚・透過高い音の分離度、フラットな周波数特性。
重い物理量・質量低周波および中低域のエネルギーが支配的。
明るい視覚・輝度強力な高周波の音の立ち上がり、鋭いアタック。
甘い味覚高音域の早い減衰、基音の強調。
よく歌う擬人化音色や音量の高いコントロール性。
繊細物理的反応微妙な弾き方の変化に対する高い感度と素早い入力反応。
遠達性空間物理指向性の高い音響効率、中域の倍音による長距離到達能力。
枯れた時間・植物不要な倍音の急速な減衰、純粋な基音。
日本語でギターの音色をあらわす言葉とその意味

触覚や運動感覚の言葉

粘りがある

私が長年よくわからなかった「粘り」は、難しく言えば音の知覚的な抵抗感と流体的な弾力性を指す言葉のようです。

たとえば弦を弾いてからその音がゆっくりと消えていくような楽器は「粘りがある」と表現されます。つまりサステインが長いということですね。

ただ、単に音が長いだけでなく、どこかのタイミングで急激に音が減衰することなく自然に消えていくことが「粘り」の条件となっています。これにより、奏者は次の音を弾くまで前の音が指に吸い付いているような感覚を覚え、これが「粘り」という表現につながっているのかもしれません。

レガートな演奏がしやすかったり、ゆっくりした叙情的な曲を弾くときに有利な特徴といえるでしょう。

重い音

音には重さがないので「重い」という表現は本来妥当ではないのですが、割とよく使われる表現です。

「重い音」というのは、低周波数域及び中低域の音のエネルギーが支配的で、かつ音アタック音が弱いことを示しているようです。

これによって室内の空気を物理的に押し出すような、重厚な音圧を聴衆が感じるのでこの表現になったと思われます。

視覚及び輝度の言葉

艶がある音

音には見た目がないですが、視覚的な表現がよく用いられます。

「艶がある音」というのは、高周波数の倍音が豊富でありながらその位相が揃っており、耳障りな非協和音を含まない純度の高い音を指すようです。

また、音の輪郭をぼやかすようなノイズがないことも示しています。

純度が高いという意味では私が使っているヘスス・ベレサール・ガルシアがこの表現に当てはまりそうです。

明るい音

この表現は非常によく使われますが、音が明るいというのはあらためて考えてみると不思議なものです。

明るい音とは、高周波及び高次倍音が多く存在する音を示します。

高い周波数の音は指向性が高く鋭く聞こえるため、このために聴衆の注意をひきつけやすい音です。自分で弾いていても目立つ音なので魅力的に感じます。

一方、明るいだけの楽器だと音が金属的で耳に刺さる可能性もあるので注意が必要です。

透明感がある音

私が使っているハウザー2世はよく「透明感がある音」といわれますが、正直「どのあたりが?」と聞かれると答えに詰まる表現でした。

調べてみると「透明感がある音」は、複雑な和音を弾いた際の一つ一つの音の絶対的な分離感と明瞭さを意味しているようです。

音響学的には特定の周波数域に共振ピークを持たず、全体的に周波数特性がフラットある必要があると思われます。

ただ、フラットだからといって分離感があるとは限らず、前述の「明るい音」という条件も必要なのかもしれません。

味覚、感情、擬人的な表現

ギターから魔力のようなエネルギーが出ている画像

甘い音

甘い音は特定の楽器だけでなく、クラシックギターの音色をあらわす言葉として使われます。面白いことにこの表現は世界中で普遍的にみられるのだそうです。

日本語では鋭いアタック音や攻撃的な高周波成分が少ない音が「甘い音」とされます。アコギやエレキと比べるとわかりやすいかもしれません。

音響学的には基音と中低音の協和倍音が支配的な音であり、このような音は人間の脳の快楽中枢を刺激し丸く包み込むような聴覚体験となります。

よく歌う楽器

「このギターは良く歌う楽器です」という表現はギターショップの楽器紹介でよく見かけます。

その意味は煎じ詰めると「奏者が思ったように音量や音色をコントロールしやすい楽器です」ということのようです。

以下の記事で紹介したようにクラシックギターの音は人の母音に近いスペクトルを持っているので、「よく歌う楽器」は「まるで人が歌っているかのように情感に訴えかける楽器」という意味もあるのでしょう。

繊細な音

「繊細な音」は、奏者の弾き方に対して非常に反応が良い楽器のことを指します。

たとえばピアニッシモで弾く際、弱い力を微妙に変化させて音量変化できる楽器は繊細な音を持っているといえるでしょう。

表面板が軽い楽器は反応が良いため、このような楽器となりやすいです。

一方で繊細な楽器は音量や音色のコントロールの難しいこともあります。奏者との相性が重要です。

空間/時間的な表現

遠達性がある

遠達性とは、ギターの音が遠くまでよく届くことを指します。

遠達性についてはこちらの記事で詳しく解説していますので参考にしてください:

枯れた音

「枯れた音」は古いギターによく使われる表現です。

これは音の基音がクリアである一方、派手な印象を与える高次倍音が速く減衰するような音を指します。

これにより音の過剰さがそぎ落とされ、音の純粋さが際立ち、高い音楽表現が可能になります。

邦楽楽器における独特の音色表現

三味線から激しく音が出る画像

ギターは日本にとって比較的新しい楽器なのでまだ音色表現の言葉がわかりやすいですが、邦楽楽器にはパッと聞いてもわからないものがあります。

三味線や琵琶:サワリ(触り)

サワリはギターでいうところの弦がフレットや指板に触れて鳴る「ビビリ音」のことです。

西洋音楽の楽器であるギターにとってビビリ音は悪いものなのですが、三味線や琵琶においてこの「ビビリ音」は意図的に鳴るように設計されています。

具体的には、三味線のネックに当たる棹は最も低い弦が「サワリ山」と呼ばれる棹の上部の特定の突起にわずかに触れるように設計されており、弦が弾かれたときに打ち付けられることで「ビィーン」という非協和的なノイズが発生します。

この意図的な非協和的なノイズが音に感情的な深みや複雑さを与えるのです。

サワリは自然界に内在する荒々しさや、日本人の不完全さを愛でる感性から生まれたものであり、サワリがない三味線は「命がない」とか「無機質である」といわれます。

参考:湧き水流 のブログ記事「”サワリ”について」琵琶 双山敦郎 晴耕雨琵

尺八:ムラ息と笹音(ささね)

尺八の「ムラ息」は奏者が竹の管に大量の空気を意図的に吹き込むことで、爆発的な風切り音を発するものです。

その音は極めて攻撃的であり、竹林を吹き抜ける突風の暴力を模倣しているのだとか。

「笹音」はムラ息とは対照的に、高音を伴わない空気のかすかな流れだけを管から逃がし、柔らかくカサカサとした音を作り出すものです。

その名の通り微風に揺れて擦れ合う笹の葉の優しい音を表現しています。

英語とスペイン語でギターの音色をあらわす言葉とその意味

最後に世界で広く使われている英語と、ギターの本場であるスペインの言葉のギター独特の音色表現をご紹介します。

言語独特の表現直訳音響的・音色の特性
英語Bloom開花・膨らみアタック音の後で遅延して起こる倍音の膨張。
英語Woody木のような高音域の速い減衰、強力な中低域。人工的な響きの排除、有機的な乾燥感。
英語Liquid液体状の水が流れるように音が途切れずシームレスにつながる。
英語Glassyガラスのような速く鋭いアタック音。極めて澄み切っているが、 耳をさす音になる危険性を内包。
英語Hollow空洞の・くぼんだ中音域が少なく、低音と高音が強調。
英語Chime鐘の音結晶のような純粋さをもって鳴り響く。
スペイン語Duende妖精・憑依物理的音響を超越した、聴衆に生理的反応を引き起こす強烈な感情的共鳴。
スペイン語Garra爪・噛みつき極めて攻撃的で素早い音の立ち上がり。ラスゲアード等に対する即応性。
スペイン語Pastoso生地・ペースト基音が支配する分厚い音。
英語とスペイン語でのギターの音色表現

英語でギターの音色をあらわす言葉とその意味

世界中のギターの音色表現の画像

上の表を見ると英語表現はどれも比較的なじみがあるように思いますが、興味深いのは”Bloom”でしょうか。

“Bloom”は音色の時間変化をあらわす言葉で、最初に鋭いアタック音が出たあと音量が減衰するのではなく、そのあとでアタック音ではなく基音や高次倍音によって音量が時間とともに増加する様子を表します。

まるで花が咲くように音色が複雑に変わっていく様をあらわしているのでしょう。

日本語にはこれに直接対応する言葉がない、非常に美しい言葉です。

また、”Hollow”も日本で使わない言葉のように思います。中音域が少なく、低音と高音が強調された音色をあらわし、空洞の部屋での音響共鳴が語源のようです。

スペイン語でギターの音色をあらわす言葉とその意味

スペイン語表現は非常に独特です。

Duende:妖精/魔性/憑依状態

Duendeのイメージの画像

“Duende”(ドゥエンデ)は妖精/魔性/憑依状態をあらわす言葉であり、スペイン独特の言語への翻訳が不可能な概念なのだそうです。

フラメンコやスペインギターの世界では、「トランス状態」を意味し、感情の高ぶりや深遠な表現の極致に達したことを指します。

そして、ギターの音色が「ドゥエンデを宿している」といわれるときは、聴衆にもトランス感覚を引き起こすのだとか。まさにギターに何かが乗り移ったかのような抗えない魔力的な魅力ある音なのでしょう。

楽器そのものの音色というよりは、奏者も加わっての音色と思われます。

Garra:爪/噛みつき/グリップ

”Garra”(ガラ)はフラメンコの楽器によく使われる言葉で、パーカッシブなアタック音を指します。

ギターの場合は特にラスゲアードに対して瞬時に反応するような楽器が「ガラを持つ」といわれるそうです。

肉食動物のようなスピードと力強さで音がはじけ飛ぶことから「噛みつき」という言葉が使われたものと思われます。

Pastoso:生地のような/粘土状の

“Pastoso”(パストーソ)はペースト状のとかパン生地のような意味の言葉であり、ギターに使われる場合は分厚く、豊かで、暖かい音を持つことを意味します。

これの対義語が”Metalico”(メタリコ)や”Brillante”(ブリジャンテ)であり、基音が抑制され、高周波で耳を刺すような音です。

音色表現は文化に影響を受ける

調べてみてギターに限らず楽器の音色表現は非常に面白いと感じました。

特に日本の三味線や琵琶、尺八、そしてスペインのギターのように昔から文化に根付いている楽器には文化に大きく影響を受けた言葉が使われていて興味深いです。

日本におけるギターはまだまだ新参者ですので独特の表現はありませんが、これから何百年と弾きつがれていくと日本の文化を感じさせる表現が出てくるかもしれませんね。

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