実はクラシックギターには1本1本、一番よく鳴る弦の張力が存在することをご存じでしょうか?弦は製品ごとに張力(テンション)が異なります。その違いは6本の合計で10kg以上にも及び、弾いているときの感覚は全く違うものです。実は張力がギターに与える影響は音量や弾きやすさだけではありません。ギターを「窒息」させることもあります。音色や楽器への影響を科学的な観点から解説したいと思います。
「弾きやすそうだからローテンション、音量が欲しいからハイテンション」はもったいない
クラシックギターの弦を選ぶ際、製品ごとに音色などが違い、好みの弦は千差万別です。
一方、テンションの選定についてはあまり深く考えられずに「アマチュアならノーマルテンションで十分」とか「プロはやっぱりハイテンション」といった具合に選ばれています。
しかしながら、弦のテンションは単に弾きやすさや音量を決めるだけのものではないことをご存じでしょうか?
この記事では科学的な観点からクラシックギターの弦の張力が音色、弾き心地、さらには寿命に与える影響を解説します。
張力が音を変える物理的なメカニズム
まずはテンションがクラシックギターの音を変える物理的なメカニズムを解説します。
結論をまとめると、テンションごとに音の特徴は以下の表のようになります:
| テンション | 張力の目安 | 音の特徴 |
| ローテンション | ~38㎏ | 温かく丸みのある音、長いサステイン |
| ノーマルテンション | 38kg~42㎏ | バランスの取れた音、幅広い表現力 |
| ハイテンション | 42kg~ | 明確な輪郭、輝かしい、音量大 |
豊かで温かみのあるローテンション、輝かしいハイテンション

弦の音色を表す言葉として「豊かで温かみがある」とか「輝かしい」とかいうものなどがありますが、これらの印象は科学的に説明できます。
音やキャラクターを決めるのは「高次倍音の構成比率」です。
こう書いてしまうと難しそうですが話はむずかしくありません。たとえば5弦の開放弦を弾くと出てくる音は「ラ(A)」ですが、この音に含まれるのは440Hzのラの音だけではなく、より高いさまざまな音が含まれています。
以下はそのイメージ画像です。一番左の赤いバーがラの音として、それだけでなく様々な高い音の成分(高次倍音)が存在することでクラシックギターらしい音となります。

そして、基音の成分が強いほど豊かで温かみがある音、高次倍音の成分が強いほど輝かしい音となるのです。
ここで張力の話に戻ると、テンションが高いと高次倍音を効率的に増幅させる性質が強まり、結果として輝かしい音になります。
音量はテンションが高いほど大きい
音量については一般的な認識同様、テンションが高いほど音が大きくなります。
音量は弦の振れ幅が大きいほど大きくなるわけですが、クラシックギターには指板やフレットが弦に近接しており、弦の振れ幅が大きくなると接触してしまいます。
同じ振れ幅を出すのに必要な力はハイテンション弦のほうが大きく、結果としてより大きなエネルギーが弦に蓄えられ、より多くのエネルギーで表面板を振動させられるのです。
サステインはローテンションのほうが長い
一方、サステイン(音の減衰の遅さ、響きの長さ)はローテンション弦のほうが豊かです。この差は弦から表面板へのエネルギーの伝わりやすさ(機械的インピーダンス)の違いによって生まれます。
張力が高いと弦から表面板へとエネルギーが伝わりやすく、そのために弦の振動がより速く止まります。このこともあって音の立ち上がりが速く感じるのです。
一方、ローテンションの場合は弦の振動が伝わりづらく、音の立ち上がりが遅く感じられますが、音の響きは長くなります。
ちなみに人によって「ハイテンション弦はサステインが長い」という方もいますが、これは一気に音のエネルギーが放出されることで、人間の聴覚や心理的知覚が「サステインが豊か」と認識されやすいことによります。人間とはそういうものなので、決してその人の知覚が間違っているのではありません。
ギターには1本1本最適なテンションがある

弦のテンションとギターの音について調べていて一番面白かったのが、「ギターには最も効率よく共鳴する最適な張力が存在する」という点です。
張力とともに剛性が変わる表面板
D. P. HessがSavart Journalに掲載している論文によると、ギターの表面板は弦の張力に対し剛性が非線形に変わる「硬化非線形剛性」を示すそうです。
言葉が難しいので平たく言えば、テンションの低い弦を張った時の表面板とテンションが高い弦を張った時の表面板は、単純にテンションに従って性質が素直に変わるのではないことを意味します。
性質が変われば音量や音色も変わりますので、それぞれのギターには最も効率よく鳴る最適な張力が存在するといえるのです。
よく「このギターにはテンションが高い弦が合う」とか、「テンションが高い弦を張ると音がつぶれる」という会話がありますが、そういうことは科学的にあり得るということが言えるでしょう。
中高音のほうが影響が大きい
この張力に対する表面板の性質の変化は、低音よりも中高音に対して影響が大きいことがわかっています。
先述の論文によると、標準的な調弦から半音下げ、全音下げで周波数応答の変化が測定されており、第1固有振動数やヘルムホルツ共鳴周波数は張力が変わっても不変でした。
一方、第2固有振動数は半音下げで219Hzから217Hzに、全音下げで215Hzに低下し、これは表面板の剛性がそれぞれ3%および6%低下したことを意味します。
最適なテンションの探し方
では、どうやって自分の楽器にとって最適なテンションを見つければ良いでしょうか?
テンションを高くすると表面板の緊張と剛性が高まります。この緊張が適切であれば素晴らしい鳴りとなるのですが、剛性が高すぎると表面板が締まりすぎ、板の自由な振動が阻害されて音が「窒息」したようになります。
テンションによる表面板への影響は中高音に出やすいので、テンションを変えて高音の鳴りが悪いと感じたらテンションが高すぎるといえるでしょう。
逆に中高音がどうも鳴りづらいと思ったらテンションを上げてみても良いかもしれません。
まずは今使っている弦のテンション違いから始めてみてください。

使っている弦にほかにテンションがあるのか知りたい、もっとテンションが違うほかの弦を知りたいという方はぜひこちの記事をご覧ください:
演奏性とミックステンションの合理性
演奏性の観点でいうと、それぞれにメリットとデメリットがあります。
| テンション | メリット | デメリット |
| ローテンション | 疲労が少ない、セーハしやすい、ビブラートしやすい | 強く弾くとビビりやすい |
| ハイテンション | 速いパッセージやトレモロを弾きやすい | 疲れやすい、レガートに弾きづらい |
このような特徴から、最近では低音弦をハイテンションに、高音弦をローテンション(ノーマルテンション)にしたミックステンションと呼ばれるセットが販売されています。
ミックステンションの特徴は以下です:
- 低音弦:振れ幅が大きく、フレットや指板に接触しやすい。また、存在感が欲しいのでハイテンションが好ましい。
- 高音弦:ビブラートやレガートを用いた歌いまわしが必要なのでローテンションが好ましい。
ミックステンションの代表例がサバレスで、ほぼすべてのセットにミックステンションが用意されています(日本未発売のものもあり)。

このサイトでもレビューしています:
また、オーガスチンもハイテンションのブルー低音弦にローテンションのクラシック高音弦を組み合わせたセットがあり、ミックステンションと言えるでしょう。
もちろんバラ弦で買えば好きな弦をミックステンションにすることが可能です。
楽器がよく鳴るテンションを探してみては?
この記事で紹介したように、クラシックギターにとって弦の張力は単に音量や弾きやすさを変えるだけでなく、音色やその楽器の潜在能力をも左右する重要なパラメータです。
さらにはギターには1本1本最適な張力が存在しており、もしかすると今使っている弦の張力はその楽器にとって鳴りにくいテンションである可能性もあります。
弦のメーカーや種類を変えるのは勇気がいるかもしれませんが、一度テンションだけでも変えてみてはいかがでしょうか?もしかすると新たな発見があるかもしれません。
当サイトではさまざまな弦のレビューを行っていますので、よろしければ参考にしてください;




